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【第1部】 第9話 いざ、学校へ①

last update Last Updated: 2025-06-13 17:01:02

「じゃあ、行ってきます」

「おう、楽しんでおいで」

 ヘンリーと祖父が仲良く手を振り合う。

 その様子を横目で眺めつつ、私と龍は揃って肩を落とした。

 これからのことを思うと、そんな笑顔で手を触れる心境にはなれなかった。

「流華、ヘンリーを頼んだぞ」

「……はい。行ってきます」

 満足そうに微笑む祖父の見送りを受け、私とヘンリーと龍は家の門をくぐった。

 ヘンリーは満足そうな笑顔で、軽快に学校へと続く道を歩いていく。

 その後ろから、私が重い足取りで歩いていく。さらにその後ろには、暗い雰囲気の龍が私に付き従う。

 もうなるようにしかならない。

 こうなったらドンとこいよ。ヘンリーのことは、私が守ってやろうじゃない。

 昔からの悪い癖だ。

 おせっかいな性格ゆえ、また変な気合いが空回りし始めている。

「ヘンリー」

 私が呼ぶと、ヘンリーは可愛い笑顔をこちらに向ける。

「何?」

 無邪気な笑顔……可愛くて、とても微笑ましい。

 って見惚れてる場合じゃない。私はコホン、と一つ咳払いをする。

「いい? 学校では私の言うことを絶対に聞くこと。勝手な行動はしないこと。何をするにしても、一度私の確認を取ること。

 わからないことがあるときは、何でも私に聞いて」

 矢継ぎ早に言うと、ヘンリーはきょとんとした顔をしてから可笑しそうに笑った。

「うん、わかった。

 流華は本当に優しいね、僕のことをそんなに心配してくれるなんて。

 ありがとう、大好きだよ!」

 ヘンリーが私に抱きつこうとする。が、すぐに龍の手によって阻止された。

 無言で睨む龍に対して、ヘンリーが甘えた声を出す。

「何すんだよ。また、大吾に言いつけるぞっ」

 口をへの字にして睨むヘンリーの言葉に、龍は少したじろいだ。

 祖父のことを出されると、龍は弱い。

「ヘンリー、そうやってすぐに私に抱きつくのも禁止!

 もちろん他の子に抱きつくのも、駄目だよ」

 私が釘を刺すと、ヘンリーがあげ足を取ってきた。

「え? てことは学校じゃなければ、僕は流華に抱きついていいってことだね?」

 無邪気な笑顔で私に微笑みかけるヘンリー。

「あのね……そういうことじゃなくて」

 私が言い返そうとすると、黙っていた龍が言葉を発した。

「お嬢、私はここまでです。

 しかし、こいつにはくれぐれもお気をつけください。油断なされませんように」

 龍はさりげなくヘンリーを睨みつけたあと、私の目を真っ直ぐに見つめた。

 いつもの如く、龍は定位置から流華を見送ってくれる。

 いつもと違うことといえば。

 龍がヘンリーを憎い親のかたきを見るような目で睨み続けていることだ。

「龍、ありがと。今日を無事に過ごせるように祈っといて」

 私がウインクすると、龍は真顔のまま固まってしまう。

 何よ、そんなに嫌だったの?

 私のウインクで固まるなんて、失礼な奴。

 私は頬を膨らませ、龍から顔を背ける。

「さて、行くか」

 私は覚悟を決め、気合いを入れると学校へ向け歩き出した。

 そして、案の定……こうなる。

 女子たちが嬉しそうな声でヘンリーに問いかけている。

「ヘンリーって外人さん?」

「金髪に碧眼って素敵! 王子様みたいっ」

「なんで日本にいるの?」

 教室の一角に、人だかりが形成されている。その中心にいるのはヘンリーだ。

 大勢の女子たちが群がり、ヘンリーは完全に包囲されている状態になっていた。

 どこぞのアイドルかよ、と私は密かに心の中で突っ込みを入れる。

 彼の美しい容姿を、女子たちは放っておかないだろう。とは思っていたが、予想以上だ。

 クラスの女子のほとんどが群がる、ハーレム状態と化している。

 隣のクラスからも覗きに来ている女子たちが、ドア付近にたむろしている始末。

 しかし、それ以上に予想を超えていたのは、ヘンリーの女子への扱いだった。

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